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福井地方裁判所 昭和30年(行モ)2号 決定

申請人 加藤尚

被申請人 福井県税事務所長

右当事者間の昭和三〇年(行モ)第二号行政処分執行停止命令申請事件につき、申請代理人は、

「被申請人は、申請人にたいし、滞納事業税一九五万円の徴収のため、滞納処分として、昭和三〇年三月四日、別紙目録記載の財産権を差押え、同年七月二〇日、右財産権を同月二九日に公売に付す旨を通告してきた。しかし、申請人は、福井県にたいする債権を有しており、既に、右債権を以て、右一九五万円の税金支払の債務を相殺する旨の話合を、申請人と福井県との間でなしているから、右滞納処分は違法である。そこで申請人は、被申請人を相手方として福井地方裁判所にたいし、右滞納処分たる差押処分の取消を訴求している(福井地方裁判所昭和三〇年(行)第二号)が、右判決があるまでに、右財産権にたいする滞納処分が続行され、右財産権の公売がなされるときは、申請人において現に使用中の電話を失うことになり、自己の営む取引が混乱に陥る結果となり、申請人は償うことのできない損害を蒙るので、右滞納処分たる公売の執行の停止を命ぜられんことを求める。」旨申立てた。

案ずるに、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項所定の、処分の執行により生ずべき償うことのできない損害とは、処分の執行によつて生ずべき原状回復不能の損害及び金銭賠償不能の損害を意味するものと解釈すべきところ、申請人の主張と疎明の程度では、まだ右滞納処分によつて右のいわゆる償うことのできない損害が生ずるとは認め難いので、当裁判所は本件申立を失当として却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

主文

申請人の申立を却下する。

(裁判官 山田正武 布谷憲治 海老塚和衛)

(目録省略)

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